<第156回国会 2003年6月10日 農林水産委員会 第16号>


平成十五年六月十日(火曜日)
   午前十時二分開会

    ──────◇───────
  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律等の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
    ──────◇───────
○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 私は、今年の二月、三月、共産党議員団ということで全国米調査に歩きました。手分けをして歩きました。それで、その目的というのは、やっぱり実際の生産者の置かれている実態、それから生の声を聞き取るということ、ちょうどWTOのモダリティーの一次案が示されたときでもありましたけれども、その問題と併せて、米政策が実際にどういうふうに受け取られているのかということを、生の声を聞いていくということ、それを、生産者はもちろんですけれども、農協などの生産者団体、それから自治体、それから消費者団体も含めて回っていこうということで回りました。
 その中で、やっぱり一番生産者にとって切実な声として、これはどこでも共通で出されているんですけれども、それは何かというと、やっぱり米価なんですね、米価の問題。今のままの水準ではとてもやっていけない、そしてこの先見通しが持てないと、そういうやっぱり実態、声が次々寄せられました。生産者団体のところに行きましたら、消費者ですね、消費者団体のところに行きましたら、消費者の目から見ても、農家がもし倒れてしまってこの後国産の米がやっぱり供給できないという事態になったらこれ大変だと、そういう心配、不安の声も出されたんです。
 それで、実際にこの五、六年の間で見ましても、自主流通米の平均価格でいうと、これは一俵当たり大体二万円ぐらいしていたものが一万六千円台に二〇%下がったわけですし、それから農水省の統計で見ても、十アール当たりの所得で、平成七年の時点では六万五千三百九十円、これが十二年度産、三四%も下がって四万二千九百十五円と。所得を十年前と比較してみますと約四〇%下がっているわけです。十五年前と比べると半分になっているというような事態ですね。
 それで、大臣にお聞きしますけれども、今のこの米価の水準に対して大臣はどのように見ているか。適正だというふうには思わないとは思いますけれども、低いのかどうなのかと。その辺の御認識について、まずお聞かせいただきたいと思います。
○国務大臣(亀井善之君) 今、委員御指摘のとおり、米価の水準、これは生産者から、またあるいは消費者から考えるといろいろ見方があろうかと思いますが、たしか御指摘の、ちょうど食糧法、平成六年くらいか七年くらい、あのころ二万円と、それから考えますと二〇%くらい低下をしていると、こういうことは事実であります。
 非常に難しいことでありまして、これ以上これらがやはり下がらないと、こういう面につきましては、今回のこの法案でいろいろの施策を総合的に進めていくことによって、これらの水準と、そして生産者の皆さん方もそれなりに意欲を持って生産をしていただけるようなことを進めていくことが必要なことではなかろうかと、こう考えておるわけでありまして、消費者のニーズに合い、またさらには創意工夫がなされて、そして生産者がそれに呼応するような米生産ができるような、消費者そして生産者と共存共栄が図られるような形というものが作られるようなスタートができればと、このように考えております。
○紙智子君 米価が非常に低いということについて認識は一致をいたします。
 それで、一番最初、二月のときに私、北海道に行きました。最初に行ったんですけれども、まだ雪が残っていて、非常に寒い日だったわけですけれども、その最初に行った空知の農協というのは合併しているところです。ここの農協に行きましたら、担い手は減少の一途と。米が一俵当たり一万三千円と、これではどうにもならない、借金だけが増えていく。転作作物もメロンとかあるいは花、長ネギや様々二十三の種類をやっているということなんですけれども、この転作の作物もすべてじり貧だと。農家が一生懸命働いても勤め人の初任給しか残らない、余りにも酷ではないかと、こういう声が出されたんです。
 それから、地域で集会がありました。地元の人たち、生産者の人たち、集まりました。その集会の中では、三十代、四十代というと、ちょうど農家の後継者といって、もう子供を育てていく世代であるわけですけれども、この三十代、四十代の中核的な農家が離農するケースが出ていると。なぜかといったら、子供を育てていく教育費が出てこないと、今のままだったら。それで、これ続けられないということでやめている例が生まれているんだと言うんです。
 さらに、その出席された中から、我が町では五十代の生産者が自殺したと。隣の町は三人だって聞いていると。四十代の人が十人の人を使って今まで頑張ってやってきたと。非常に、十人使うということは相当な規模なわけですけれども、その生産者が自殺したんだと言うんですね。それで、この人のお子さんは農業学校にも進んで、本当に後継者もできて良かったなと周りは見ていたわけですよ。それがそういう事態になったということで、本当にこの報告された方は胸を詰まらせながら報告をされていました。
 大臣は、このような米価の下落に伴う経営の悪化、こういう全国の実態に対してどのように受け止めておられるでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) 近年、米価が下落をしている、そういう中で稲作主業農家の経営状況が悪化をしていると、このことは私も認識をいたしております。こういう面で、コストの低減あるいはまた農地の集団化等による利用の集積、こういう努力、あるいはまた、より多くの所得確保のために生産物の加工や消費者等への直接販売など経営の多角化、あるいはまた所得確保や経営リスクの軽減に向けて経営者の創意工夫というものが得られるような取組と、こういうことを活発にしていく努力をしなければならないわけでありまして、今回の法改正、そういう中でそのような経営が確立できるような体制というものを取ってまいりたいと、このように思っております。
○紙智子君 とにかく、このままの米価でいけば稲作農家は崩壊すると。多面的機能という話も出されましたけれども、そういう面から見ても非常に重大だというふうに思うんです。まず、そういう状況の中で、私は、真っ先にやらなければいけないことというのは、やっぱりこの米価の水準を引き上げる、そういう価格政策の確立が必要だと思いますし、あるいはこの所得を増やすということですね、所得補償、これを緊急にやるということを米政策のその中心にするべきではないかというふうに思うんですよ。
 ところが、今度の出されている法案というのは、生産調整の在り方をどうするか、余った米はどうするか、米の取引先、取引についてどうするかということが主な骨子になっていて、別途制度化しようとしている経営安定対策についても、この米価下落の、下がった場合に、それに対しての対策、幾らかの手当てをどうしようかという程度のもので、決して、一番やっぱりみんなが困っていて願っている、その価格を引き上げるとか所得を増やすとか、そういうものになっていないと思うんですよ。
 大臣、この法案の中に米価の引上げや所得補償の確立という目的はあるんでしょうか、どうでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) 米をめぐる情勢、これは需要の減少、あるいはまた生産調整の限界感であるとか強制感の高まり、あるいはまた担い手の高齢化など、正に閉塞状況にあるわけでありまして、このような中で水田農業の未来を切り開くと、こういう視点で、消費者重視、市場重視の視点に立ちまして米政策を抜本的に見直し、農業者を始めとする関係者の創意工夫と、こういうことを引き出して需要に即応した米作り、これを進めると。
 このようなことであるわけでありまして、米価やあるいは所得補償との関連におきましても、消費者をしっかり見詰め、需要に見合う生産、そういう点で価格の安定あるいはまた農業経営の安定、これを考えるわけでありまして、今回の改革におきましてこのような取組を後押しする施策を講じておるわけでありまして、需要に応じた生産を行う努力を配慮しないで単に米価の引上げや所得補償を目的とする対策、こういうことにつきましては、現状の農業構造を固定化させるんではなかろうか、あるいは構造改革の支障となるのではなかろうか、需給事情を反映した主体的な経営の努力を阻害するのではなかろうかと、このような問題があるわけでありまして、まず今回のこの政策を進めると。こういう中で、地域あるいは産地づくり、水田農業のビジョンづくり等々を総合的に進める、こういうことをまずやることによって、将来の米作りを開いていく出発点ということが私は必要なことじゃなかろうかと、こう思っております。
○紙智子君 需要に応じたやり方をするということなんですけれども、しかし、じゃ例えば魚沼のコシヒカリが、これは需要がある、人気が高いと、じゃそれを日本全国どこでも作ることができるかといったら、そんなわけにはいかないですよね。私は、需要に応じたという話があるんですけれども、結局それはどういうことなんだろうかと。安い、外食産業が欲しがるお米あるいは加工用米、こういうことが想定されているんじゃないんだろうか、そしてその方向に進めばますます米価は下がっていくんじゃないかというふうに思います。
 そして、この価格保障あるいは所得補償、この問題についても、大臣の答弁は、昨日の本会議のときにも同じような答弁をされました、所得補償は構造改革の障害になるんだということを言われました。
 私は、これはとんでもない発言だというふうに思いました。なぜならば、今、大変な苦しみに置かれているこの米作農家、所得の補償を切に願っているわけです。しかし、それをやると、やると結局、小さな農業経営をやっている人たちは経営が安定しますからやめないわけですよね。そうすると、大規模なところに農地が集まっていかないと。したがって、価格が下がろうと所得が下がろうと我慢せよと、こういうことになるんじゃないでしょうか。そういう意味なんじゃないんですか。いかがですか。
○国務大臣(亀井善之君) 必ずしも私はそういう考え方ではなしに、やはりこのような担い手等々、そして産地と水田農業のビジョンづくりとか、将来に向かっていろいろなことを構造改革を進めると、こういうことが必要なわけでありまして、小さなと申しますか、兼業農家であるとかあるいは高齢者の農家の方々もそのような産地づくり、地域の中でいろいろ農業者あるいは団体、そういう方々が一つの創意工夫、地域で創意工夫をやっていただく、そういう中からいろいろの経営というものが可能になってくるんではなかろうかと、このように考えておるわけでありまして、今回のこのセットでいろいろなことを進めていくということがまず基本的なことではなかろうかと、このように考えております。
○紙智子君 最初にお話ししましたように、実態がどうなっているかということでいいますと、今でもやっぱり深刻な事態で、本当に自殺者が出るような事態になっているんだと。そして借金がだんだん重なっていく。生命保険を解約して当面の生活費に充てているという農家もあるんですよね。そういう実態が、小さい農家ばっかりじゃないんですよ。むしろ大規模な人ほど大変になっていると。だから、認定農家になるために借金をしてその土地を手に入れた人たち、大規模になっているところがあるわけですけれども、こういうところが軒並み深刻な打撃を受けているということなんですね。
 ですから、そういう事態の下で、本当に今何とか助けてほしいと思っている状況に対して、これ全然度外視するような政策、対策ということになりますと、何と冷たい農政だろうか、何と冷たい大臣だろうかと、そういう批判を受けても仕方がないと思うんですけれども、もう一度、いかがですか。
○国務大臣(亀井善之君) 私どもは、先般来、この米政策の改革と、こういうことでいろいろ研究をし今日の法案として提出をしておるわけであります。いろいろそれなりの御意見はあろうかと思いますが、私どもが進める、そして先ほど来申し上げましたとおり、農業者や農業団体、あるいはまた地域を通じていろいろの説明会等々を重ねることによって御理解を得、そしてこの制度というものを進めるということが私は当面必要なことと、このように考えております。
○紙智子君 なかなか御理解は進まないと思うんですよね、実態からいえば。
 それで、ここに農業白書あるわけですけれども、今年のこの農業白書の中でも、特定の担い手に集中が進まなかった要因の一つに、農業所得の確保に配慮した米価政策が続いたことというふうに挙げているわけです。
 構造改革を目標にするがゆえに価格は上がらない方がいいと、大臣もそういう見解なんでしょうか。
○国務大臣(亀井善之君) 構造改革を進めるということ、それはやはりいろいろ生産性を上げる等々のことでありますし、米価がそれなりの、生産者米価がそれなりの価格になるということは、やはりそういういろいろのことを目的に、いわゆる米作農家の方々が効率的な、そして所得が得られるようなそういう改革を、構造改革を進めるわけでありますから、構造改革を進める、こういういろいろの施策を進めるということによりまして米価の問題もそのような方向に行くと、このように認識をしております。
○紙智子君 構造改革の中身自身が本当に、本当にどうなのかということが問われていると思うんです。
 それで、今度の、米改革を行う今度のこの法案を実施した場合に、果たして生産者米価というのはどうなるんだろうかと。幾つか改革するという中身があります。例えば、生産調整の問題、この生産調整については農業者や団体の主体的な責任でこれから行うことになるんだということですね。
 実は、今度のその調査に行ったときに現場から出されたんですけれども、これに対しては、所得補償がない、そういう状況の下、それから生産調整のメリットが低くなるということ、そういう中で生産者に押し付けられてもできないという声が大半なんですね。それから、転作条件が不十分だと。このままでは生産調整の空洞化が進むだろうというふうに言っています。それから、過剰米の短期融資制度、これを作るということなんですけれども、安くなってしまうと。さっきもお話がありましたけれども、えさ用に回るということもあると。どうせえさ用に取られるんだったら少しでも高く売った方がいいということで、実際には、区分して、別で、主食には回さないというふうになっているわけだけれども、実際には、でも高く売らなくちゃしようがないということで、そうじゃなく主食に振り向けるということも出てくるんじゃないかということなんかもあるわけです。そうすると、全体をやっぱり足を引っ張って価格低下に導かれていくんじゃないだろうかという問題がある。
 それから、自主米センターが今度改組をされると。取引規制が緩和をされるわけです。今度は入札参加資格者の資格や取引規制、規則ですね、規則を緩和すると。買手が有利になる逆オークションを導入するということも中に盛り込まれているわけです。米政策の大綱は、実勢に即した価格が形成されるようにというふうに言っています。これは、結局のところ、実際には引下げにつながっていくということに、価格ですね、なるんじゃないかと。
 さらに、政府の備蓄の問題です。備蓄百万トンに減らすということなんですけれども、それまでは、結局百万トン以下にならなければ一切買入れをしないということですよね。そうすると、今まで市場価格下落のときには政府による買い支えの機能というのをやっていました。そういう機能が全くなくなるということになります。それから、買い入れた場合にも、市場価格で、今までと違って入札でやっていくということですから、安い方から買い入れるということになる。
 このように、これは本当は通告のときは別々に聞いていたんですけれども、まとめてお聞きしますけれども、こういうふうな改正をやって、生産者米価というのは更に下がっていくということが強く危惧されるわけです。
 そこで、長官に今度お聞きしますけれども、この米価への影響についてどう考えるんでしょうか。できるだけ端的にお願いします。
○政府参考人(石原葵君) 幾つか御指摘ございましたけれども、最初に申し上げたいのは、価格というのは需給で決まるんです。要するに、基本的に最近の価格は年々低下しております。これはなぜかといいますと、豊作基調というのもございますけれども、基本的に、必要以上の米が生産されるからです。需給が緩んでいるからなんです。需給が緩んでおりますと、本来米を買ってくれる卸の方も、やはりこれから価格が下がるとなりますと手を出しません。どうしても買い控えるということになります。そういうことになりますと、ますます悪循環が続くということなんです。
 ですから、要するに生産調整を、需給をきちっとする、生産調整をきちっとやっていただくことが、価格の維持、価格をあるいは場合によっては引き上げるということにつながるものと思っております。
   〔委員長退席、理事常田享詳君着席〕
 我々、そういうこともございまして、今回の米の改革では、第一番に生産調整に関するいろんな制度の改正を考えております。基本的には、十六年度から、当面の需給調整につきまして、これまでは面積でやっていたのを数量で調整する方式に転換しております。そういうふうにした上で……
○紙智子君 価格に対する影響を聞いているんです。
○政府参考人(石原葵君) 要するに、こういうことで、きちっと需要に見合った生産、生産調整がきちっとできるかどうか、それがポイントでございます。我々、そういうポイントのとおりできるように、いろいろ、国あるいは行政もいろいろ生産調整のやり方について当面関与をしていきます。それからまた、需給情報も流します。それから、生産者団体が生産調整方針を作りましたその際には、この作成及び運用につきまして国、地方公共団体が助言もいたします。それから、産地づくり推進交付金の米価下落影響緩和対策あるいは産地づくり対策は、生産調整を実効あるものにするため、あくまでも生産調整実施者を交付の対象といたします。
 そして、過剰米短期融資制度につきましても、農業者・農業者団体が主体的に豊作による過剰米を処理するような、そういう仕組みをこしらえます。こういうことを総合的に講ずることによりまして、需給及び価格の安定が図られるような体制にしていくということでございますので、御理解いただきたいと思います。
○紙智子君 価格は低くならないということなんですか。影響しないということなんですか。
○政府参考人(石原葵君) きちっと需給調整ができれば価格は下がりません。
○紙智子君 じゃ、米価は上がるし所得も上がるということなんですか。
○政府参考人(石原葵君) 当然、需給がきちっとなれば、価格は上がるか、少なくとも下がることはございません。
○紙智子君 現場では、需給調整を今回、実際それぞれのところでやるというふうになったら、それは難しいということを言っているわけですね。それが絶対そうならないというふうに、必ずならないというふうに保証できるんですか。本当にそうなんですか。
○政府参考人(石原葵君) それが意識改革なんです。それが意識改革なんです。要するに、先ほど、区分出荷ができるかどうか、それから、要するに過剰米短期融資制度が非常に、我々、以前は六十キロ当たり三千円ということを提示しておりました。今はそれは、今後八月末までに決めるということにしておりますけれども、いずれにしてもそれが低過ぎるから、農家はそういうところに売らないで、自ら夜陰に紛れて売り飛ばすんじゃないかと、そういう御指摘ございます。そういうことをやると価格は下がるんです。
 ですから、正しく農家、農業者団体に、要するに米の価格というのはどのようにして決まるのかということを十分御認識いただいて、それに応じた行動をしていただくことが重要でございます。JAはもう既にそのことを気付きまして、JAの米改革を進めようということをしておるわけです。我々はそのJAの改革努力に期待したいと思っています。
○紙智子君 そのとおりにやればというふうにおっしゃるんですけれども、そんなに実際のところは甘くないですよ。
 それで、先日の新聞に載っていましたけれども、今度のお米の先物取引、こういうことが新聞に載っていました。今回の改正でもって米を先物取引の対象にできるような改正になっていると。それを見越して既に大企業が着手をして、まあ準備をしていると。それで、米過剰でもっとこれから価格が下がるはずだと関係者が述べているんですね。そして、先物取引が一層価格を引き下げる、そういう心配がある、そういうねらいもあるというようなことが書かれているわけですよ。
 これは私は、本当にこの法案が、今でも低価格で苦しんでいる稲作農家に対して更にそういう事態が作られていくことになれば、希望をなくしていく道につながっていくというふうに思うんです。いかに米価を引き上げていくのか、そして農家の所得を補償させるのか、そういう角度からやはり私は法案を出し直すべきだというふうに思います。
 それで、ちょっと、あと残りの時間との関係で次のテーマに移らせていただきます。
 政策改革大綱、この中でも、生産調整研究会の報告の中でも、望ましい生産構造、米づくりの本来あるべき姿というのを打ち出しています。それから、効率的、安定的な農業経営が生産の大宗を占めるということを目的にしています。
 本法案もそれを目指しているわけですけれども、見ますと、北海道では二十一ヘクタール、都府県では十二ヘクタール程度の経営規模の効率的、安定的な家族農業経営が耕地面積の六割を占めるというふうになっているわけですね。しかし現在、この経営耕地面積の規模別で見ますと、都府県でいえば十ヘクタール以上は八千四百五十戸です。全体の〇・四%しかありません。それから、北海道でも二十ヘクタール以上というのは三分の一です。
 そうなると、それ以下の規模で稲作を行っているのが圧倒的多数なわけですけれども、そういう農家というのは望ましいものではないわけでしょうか。本来あるべき姿ではないということになるんでしょうか。まずその認識を大臣にお聞きしたいと思います。
○国務大臣(亀井善之君) 今度の改革、そういう中で、平成二十二年における農業構造の展望と、こういうことで、効率的かつ安定的な農業経営と、家族経営と法人経営とを合わせて四十万程度育成すると。また農地利用の面でも、六割程度、約二百八十万ヘクタールをこうした経営に集積をするということを見込んでおるわけでありまして、このような目標に対して、現状では、効率的かつ安定的な農業経営を目指す認定農業者が十七万程度、また認定農業者等への農地の利用集積が約二百十八万ヘクタールと、目標の七七%にとどまっておるわけでありまして、近年、増加面積は鈍化の傾向にあるわけでありまして、特に土地利用型農業の構造改革が遅れている状況と、望ましい農業構造の実現には今後格段の努力が必要な状況にあると、このように認識をいたしております。
 今度の米政策の改革と、このような構造改革の進展状況を踏まえた上で、生産調整システムだけでなく、米政策を総合的に再構築しようとするものでありまして、この二十二年を目標とする構造展望の実現を目指して水田農業の構造改革を加速化してまいりたいと、このように考えておるところであります。
○紙智子君 今、私聞いたのは、望ましい、本来あるべき姿以外のところですね。そのあるべき姿というふうにならないんですかというふうに聞いたんですけれども、それについてのお答えはされませんでしたけれども。
○政府参考人(石原葵君) 担い手というのは、言わば大規模な担い手を育てるというのが一つの答えでございます。それと併せまして、いわゆる集落営農、我々、経営局の方では集落型経営体という概念を打ち出しておりますけれども、そういう小規模な方が集まりまして集落型経営体というのを組織する。それは、集落営農のうち、一元的に経理を行い、一定期間内に法人化する等の要件を満たすものを担い手として位置付けているわけでございます。そういう姿も我々考えているところでございまして、決して大規模な、単独で大規模な農業経営をしている人だけを対象にしているわけじゃございません。
○紙智子君 大変困難な中で、やっぱり一生懸命主食の米を守っているすべての、やっぱりすべての農家を温かく見て、全体を対象にした施策を出していただきたいというふうに思うんですよ。
   〔理事常田享詳君退席、委員長着席〕
 それで、今度の本法案の中で、都道府県の現在の主業農家というのは、平均の経営規模が三・七ヘクタールです。それで、平成二十二年には、十二ヘクタール程度、今の約三倍の規模を拡大した家族経営を六万戸作るという目標になっています。余りにも現実と懸け離れたものだと思うんですね。
 農業白書には、新潟県の調査であるわけですけれども、規模拡大が困難であるという理由として最も多いのが米価の低迷だというふうに書いています。意欲を失わせているのが価格の低下だと。そのような中で、こういう目標を押し付けるということはどういうことになるのか。
 それは、さきに触れました北海道の規模拡大の農家の実態が示すわけですけれども、私、秋田の方にも行ったんですけれども、秋田の調査でも、規模拡大に夢を託した人が今大ピンチなんだという話が出されました。こういう米価では、作る方も、土地を貸し出す方ももう間に合わないと、コストを減らそうということで機械を導入するわけですけれども、これも償還の、償却の費用が増えて悪循環になると。その矛盾をここでも指摘をされていました。
 やはり、過大な目標を押し付けて中核的な農家自身をつぶしていく計画という、こういうことをあくまでもやろうとするということは、これはすべきじゃないというふうに思いますけれども、大臣、いかがでしょうか。
○政府参考人(石原葵君) 確かに、過大な目標を掲げるというのは適切なものではありません。我々あくまで、現状の農業構造、非常に脆弱だというこの農業構造、これをそのまま是認するんじゃなくて、新たな理想といいますか、絵を描きまして、それに向けて施策を集中するということでございます。
 具体的には、担い手育成対策あるいは農地流動化対策、こういう制度面でのいろんな拡充措置、そういうことを講ずることによりまして、そういう望ましい農業構造を実現すべく今施策を集中しているところでございますので、御理解いただきたいと思っております。
○紙智子君 今、集落営農の在り方とか担い手の問題を言われましたけれども、これも実際に非現実的だというふうに言わざるを得ないんですね。
 調査の中でも、対象要件になっている二十ヘクタールというのは無理だと、法人化はできないという声も出ていました。今の世代ならまだしも、代替わりということになればこれは続かないだろうと。それから、経理の一元化ということについても、そんな単純にできないんだということもありました。中核的な人間がいなければ駄目だというふうに言われるんだけれども、いなくてもこれまで協力してやってきた、協力体制でやってきたという声もありました。そういう人を置かなきゃならないというふうに今度からなるのであれば、それは本当に難しいという声もありました。いろいろな形で現場からの声が寄せられたんです。
 集落営農は、多様な形でやはり自主的に工夫しつつ、必死に農業や集落の維持のために頑張ってきているわけです。そこに一線引いて、それ以下は支援しないということで無理に要件を強要するということになれば、元々の集落営農の機能がかえって壊れることになりかねないではないかというふうに思うんです。それで、このような構造改革を進める旗印になっているのが、国際競争力を高めるということがあると思うんですね。
 それで、これも農業の現状を見ればもう非常に非現実的な議論だというふうに思います。経営規模にしても、賃金にしても、中国や日本と比べれば、あるいはアメリカやほかの国なんかと比べれば、全然やっぱり違うわけですよ。そういう中で、国際競争力向上ということであおるやり方というのは、必死にコストを削減しようということで取り組んでいる我が国の農業に過大な負担を負わせることになるだろうと、一層やっぱり生産者を窮地に追いやることになるというふうに思うんです。
 こういうふうにして構造改革をやって、一体どれだけ生産コストの低減を図ることができるのか。計算されているようですけれども、一体どれだけ軽減できるのか、そしてそれで国際競争力が付くと思っているのかどうか。前段の部分については農水省の答弁を求めます。後段は大臣お願いします。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 米の生産コスト、果たして国際競争力が付くのかということでございます。米の生産コストは、一つは……
○紙智子君 削減目標。
○政府参考人(須賀田菊仁君) 削減目標ですけれども、何と関係するかというと、スケールメリット、経営規模、担い手の能力、それから機械化体系、圃場のまとまり、団地化、生産資材の削減、それから低コスト化農法、いろいろな政策が相まって実現が図られるわけでございます。
 目標を言いますと、現在でも大規模農家というのは平均より約三割ぐらい低コスト化を実現していると。今後、構造改革が進展をいたしまして、圃場の大区画化、それからまとまり、団地化、あるいは大規模な機械化体系、こういうものが確立した場合には、約四割から五割コストダウンが図られると。さらに、直播栽培、直まきでございますけれども、こういうもので一割程度その削減が図られると。合わせまして、最大にいたしまして四割から六割コストダウンが可能というふうに想定試算をしておるところでございます。
 じゃ、これで国際競争力が付くのかという話でございますけれども、これで、例えばアメリカにおきましては一戸当たり百三十七ヘクタールでございまして、現状で日本の生産コストと比較いたしますと十分の一程度でございますので、なかなか外国並みということになるには至らないのが現状でございますけれども、国民の理解を得て農政を進めていくためには、やはり生産性の向上、コスト削減に努力していると、そういうことを国民に理解していただくことが前提になるのではないかというふうに考えております。
○紙智子君 WTOの交渉でも、関税の交渉とか貿易規制とかということを持ち出すこと自体が、やっぱり競争力がなかなか大変なんだということを認めているということだと思うんですね。
 以前にも一度紹介しましたけれども、これはアメリカの研究者の方でジェームス・シンプソンさんという大学の先生なわけですけれども、この方も、構造改善にどんなに努力しても日本の農業の高コストの体質を根本から変えることは不可能だというふうに指摘をしているんです。しっかりと輸入規制をして自給率を上げるということを主張されています。
 それで、農家は今、構造改革、国際競争力をというふうには言わなくても、コストを削減する努力というのを、先ほど信田さんがお話しされていましたけれども、今までやってきているんだという話ありましたけれども、実際にはこういう努力をしてきている。そこに、過大なスローガンを掲げて、零細農家を排除して、大規模農家に飽くなきコスト削減の競争を押し付けていくと、こういう構造改革というのは見直すべきだというふうに私は思います。
 北海道の酪農は、規模でいいますとヨーロッパ並みに、酪農の分野だけでいえばヨーロッパ並みにはなっているわけですけれども、しかし、国際価格には太刀打ちできません。借金がどんどん累積されていて、もうゴールなき規模拡大という状況になっているわけです。国際競争力やこの構造改革を振りかざして我が国が農業を窮地に追いやっていくということになるならば、本当に、お米や野菜を栽培して、そして消費者に安定した作物を供給していこうという農家自身を失うことになるし、そして農家がいなくなれば耕すことがなくなってしまうわけですから、農地、水田は荒れ地になってしまうと、そして国土や環境の多面的機能というのは失われていくわけです。農村社会も立ち行かなくなるということは、やっぱり本当に、消費者の利益をというふうに言うわけですけれども、そのことは全体としてその利益に背くことにつながっていくというふうに思うんです。やっぱり必要なのは、今、米価の引上げや所得補償政策の確立を図ることだと思います。そのことが本当に農業に意欲のある人たちを生み出していく最も基本的な施策だというふうに思います。
 この点で大臣の見解をお聞きしたいと思います。
○国務大臣(亀井善之君) 稲作農業の健全な発展、これは大変重要なことでありますし、効率的かつ安定的な経営体、及びこれを目指す経営改善に取り組む経営体を確保し育成するということは重要なことでありますし、この経営体が安心して経営し、そしてその継続や安定性が確保されるというための、確保されるということは重要なことであるわけでありまして、こうした考え方の下に、今度の問題におきましても、豊作等による米価の著しい下落があった場合には、その影響を緩和する稲作経営安定対策等の品目別対策、あるいはまた自然災害による米の減収と、こういうような場合の補てんでは農業災害補償制度、あるいはまた水田経営の規模拡大や経営の改善等に必要な長期かつ低利の資金の融資、これら施策を講じておるわけでありまして、今回の米政策の改革、これにおきまして、米価下落による稲作収入の減少の影響が大きい担い手を対象に担い手経営安定対策を講ずることといたしておりますほか、これまで、担い手育成施策や農地流動化施策に加えて、農地の利用集積等の支援策を重点化しているようなことでありまして、これらの施策を総合的に進めることによりまして、稲作農家の経営向上が図られてまいると、このように考えておるところであります。
○紙智子君 ずっと審議をしてきているんですけれども、この後も続くわけですけれども、私は、やっぱりやり取りを通じても、本当に、現場の本当に切実な要求や実態との間でも、今度出されている法案が懸け離れているというふうに言わざるを得ないんですね。ですから、この後の審議も含めて十分なやっぱり審議を徹底していって、そそくさと採決することのないように、そのことを申し上げまして、質問を終わらせていただきます。