<第156回国会 2003年3月26日 農林水産特別委員会 第4号>


第156回国会 農林水産委員会 第4号
平成十五年三月二十六日(水曜日)
   午前十時開会
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  本日の会議に付した案件
○政府参考人の出席要求に関する件
○平成十五年度一般会計予算(内閣提出、衆議院送付)、平成十五年度特別会計予算(内閣提出、衆議院送付)、平成十五年度政府関係機関予算(内閣提出、衆議院送付)について(農林水産省所管及び農林漁業金融公庫)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 最初に、漁業にも関係する問題で、北海道の矢臼別演習場の砂防ダムの建設の問題について質問いたします。
 この砂防ダムは、この矢臼別演習場内の別寒辺牛川水系に三基計画をされています。別寒辺川というのは、別れるの別に、寒い寒で、辺という字に牛と、別寒辺と書いてベカンベというふうに言うんですけれども、別寒辺川。それで、その三基が計画をされて、うち一基はほぼ完成しています。この河川はダムのところから下流の、下流にはラムサール条約登録の湿地帯、別寒辺牛の湿地帯があるわけですけれども、その湿地帯を通って厚岸湖、湾に注いでいます。
 それで、場所的にいいますと、本当は地図があればいいんですけれども、釧路と根室の間ぐらいがちょうど厚岸があって、太平洋側にその川が流れて、方向としては流れているということになっています。その上の方に矢臼別演習場があるということなんですけれども。
 それで、この厚岸町の漁業は、特にカキが北海道の中では第二位という生産です。かつて、この川の上流の開発による影響と見られるカキの大量死がありまして、その後、毎年、漁協なんかでは木を植えて環境保全に力を入れています。それだけに、漁業者もこのダムの影響があるんじゃないかと、あるかないかということでは重大な懸念になっているわけです。
 また、この砂防ダムによる別寒辺牛川周辺湿地の生態系や環境への影響も危惧されています。特に、絶滅危惧種、淡水魚のイトウの貴重な生息地でもあると。これによる生息への影響が心配をされているんですね。
 それで、ちょっと遠いので、ちょっとなかなか見えないかと思うんですけれども。(資料を示す)これが、その中に流れている源流に近い方の川ですけれども、こういう川で、それこそ大体幅が二メートルぐらいですから、ぽんと跳んで渡れるぐらいのそういう川なんですけれども、こういう川のところにこの二百十八メートルのダムが、巨大なダムが、この小さなちょろちょろという川のところに大きなダムがとにかく造られているという、これ砂防ダムなわけなんですけれどもね。そういうふうなことになっているわけです。それで、この大きさは多摩川の下流の堰と同じ規模のものなんですね。
 それで、そこでお聞きしますけれど、まず、事業者の防衛施設庁、今日見えられていると思いますが、砂防ダムへの疑問の声が自然保護団体や漁業者から上がっております。事業の見直しが検討されるようになっています。衆議院で、我が党の児玉健次議員が提出した質問主意書に対して、今後、有識者からの意見の聴取を行ってまいりたいというふうにしています。漁協も第三者機関による影響調査を求めているんですね。検討委員会を作って調査検討する用意があるのか。やるとすれば構成などについてはどういう構想を持っておられるのか、お答えいただきたいと思います。
○政府参考人(大古和雄君) 防衛施設庁の方からお答えさせていただきます。
 矢臼別演習場では、自衛隊等の訓練に伴いまして、降雨、融雪の際、演習場内の河川に土砂が流出しております。そのため、下流の水質を汚濁させ、漁業に被害を与えるおそれがあるとの厚岸町の要請を踏まえまして、矢臼別演習場内の別寒辺牛川支流にダム三基の建設を計画いたしまして、かかる調査、設計及び工事につきましては厚岸町に委託して実施しておるところでございます。
 これらのダムの建設に関連いたしまして、従来、所要の自然環境調査を行ったところでございますけれども、今般、イトウの生息に関し懸念があるとの御指摘をいただいておりますので、当庁としては、万全を期す観点から、既に設置したダムの魚道におけるイトウの遡上状況及び今後ダムを設置予定の河川におけるイトウの生息状況等につきまして補完的調査を行うとともに、イトウの生息状況、魚道の在り方等につきまして有識者の御意見等をいただくため、地元自治体でありますし河川管理者でもあります厚岸町と共同で御指摘の検討委員会の設置を考えておりまして、現在その準備を行っているところでございます。
○紙智子君 その検討委員会は、専門家も入れて第三者機関という形でやられるんでしょうか。
○政府参考人(大古和雄君) 各方面の有識者に御参加いただいて、防衛施設庁と厚岸町の共同でいろいろ専門的見地からの御検討をいただく会議としては考えております。
○紙智子君 そうしますと、厚岸町と防衛施設庁、局ということになると、専門家というか、その道の専門家の方は入るんでしょうか。
○政府参考人(大古和雄君) 今お願いします主催者として札幌防衛施設局と厚岸町ということを言いました。有識者としては第三者の専門家の方にお願いしたいと、こう思っております。
○紙智子君 それで、さっきのお答えの中で、イトウの遡上について、それから生息状況、水質検査なども入っていますか。
○政府参考人(大古和雄君) その点についての御意見を有識者からいただきたいと思っております。
○紙智子君 厚岸湖、この厚岸湾ですね、ミネラル分がとても多くて豊かな漁場なわけです。
 それで、砂防ダムによる影響が川から海に及ぶと、そういうことを心配しているわけですけれども、このダムによって、森から運ばれてくるミネラル供給や、川や海に必要な砂やれきの運搬を阻害して、ダムから漁業被害を出すような細かい泥というんでしょうか、こういうものだけが流れるんじゃないかという指摘もあるわけです。
 漁業への影響もそこでの調査や検討の項目に入れるべきではないかと思いますけれども、それについてと、それから検討委員会は公開にすべきだと思うんですけれども、その点について。
○政府参考人(大古和雄君) この砂防ダムにつきましては、漁業組合の方からの漁場の保護という観点から、厚岸町の要請を受けて設置しているものでございます。
 今の水質の関係でございますが、この点についても、既に設置したダムのその後の水質状況等を検査いたしまして、その点についても有識者の御意見を伺いたいと、こう考えております。
○紙智子君 漁場の保護ということを言われているんですけれども、一月二十一日に、ここの厚岸の漁協から要請書が出ていますね。それで、この要請書の中を見ますと、本件につきましては当組合に対して正式な説明・協議がなされていませんというふうに説明を求めています。
 今慌てて説明をしているようなんですけれども、つまり漁業被害のためということを言っているんですけれども、この中でもはっきり分かるように、漁民全体の要望ではないんですね、これ。是非その意味では、漁業者への、漁業関係についても調査をすべきだというふうに思いますが、もう一度。
   〔委員長退席、理事田中直紀君着席〕
○政府参考人(大古和雄君) その厚岸の漁業組合の点に関しましては、防衛施設庁としても、厚岸町に確認しましたところ、組合として砂防ダムの建設に反対しているということではなく、既存環境調査に係る説明及び更なる環境調査の実施等を要望しているものであると承知しております。
 いずれにしましても、漁業関係者に調査の結果等については適切に説明していきたいと、こう思っております。
○紙智子君 次に、環境省にお聞きしたいんですけれども、この川に生息するイトウは絶滅危惧TB類と。さらに、北海道で作っています北海道版レッドリストの中で最高位の絶滅危惧種になっています。イトウは食物連鎖の最上位に位置し、北海道の河川性魚類を代表する魚、イトウを通して北海道の河川の健全性が評価されると、これは北海道の水産のふ化場の見解なんですけれども、北海道では河川環境を評価するバロメーターだというふうにしています。
 環境省は、このイトウの価値についてどのように位置付けて、その保護について、通常、開発事業者に対してどういう指導をされているのか、お答え願います。
○政府参考人(小野寺浩君) イトウは、委員御指摘のように、環境省が平成十一年の二月十八日に作成しました汽水・淡水魚類のレッドリストにおいて、ごく近い将来における野生での絶滅の危険性が極めて高いとされる絶滅危惧TA種というのがありますが、それに次ぐTB種に掲載されております。したがって、絶滅のおそれが非常に高い種類であるというのが環境省の認識であります。
 また、開発事業の実施に当たりましては、事業者において十分な環境調査の実施、その結果を踏まえた希少な生物の生息環境の保全など、事業地周辺の自然環境保全への配慮が必要であるというのが我々の認識であります。
 お尋ねの事業につきましては、防衛施設庁からも今お話がありましたように、事業者において、事業がイトウの生息に与える影響等について有識者の意見を聴くための検討委員会を設置することになっております。この委員会の結果を踏まえて適切に対処するものと考えておりますが、環境省としても、イトウの保護の観点から、必要に応じて助言をしてまいりたいと考えております。
○紙智子君 もう一度防衛施設庁にお聞きしますが、この水系は北海道においても貴重なイトウの生息地でありますけれども、工事始める前の平成十一年の十月の捕獲調査で発見をされて、二月、調査報告書に記載されているわけです。その当時、防衛施設庁はこのことを環境省に対して連絡をしたり、この保護についていろいろ相談をしたということはあるんでしょうか。
○政府参考人(大古和雄君) 本事業につきましては、環境影響評価法等に基づく対象事業に該当しませんけれども、当該事業には環境への影響を最小限との観点から、平成十一年度に魚介類調査等を実施したところでございます。
 ただし、今お尋ねの件で申しますと、その時点では環境省には特に相談はしていないという経緯はございます。
○紙智子君 環境省と相談をなしにこういうことをやるというのは、やっぱり本当にそういう絶滅するかもしれないという貴重なところに対しての軽視の姿勢というふうに言わざるを得ないと思うんですね。
 それで、魚道を設置するというふうにしているんですが、それでイトウが遡上できる、その上流で繁殖ができるというのは何を根拠に判断をされているんでしょうか。
○政府参考人(大古和雄君) 先ほど申しました平成十一年度の魚介類調査等におきまして、サケ、マスのほか、遡河魚ではございますけれども、イトウ等の魚類が確認されました。その観点で、この生息に影響を及ぼさない方策として有効と考えられる附帯施設といたしまして魚道の設置について検討を行いまして、他の類似事業における魚道の設置状況等を踏まえまして、その規模等を決定したところでございます。
○紙智子君 イトウという魚は繁殖力が弱いんですね。環境には非常に鋭敏な魚というふうに言われています。その特性を考えなければならないということでは、魚道を造ってイトウが本当に生息していけるという、具体的に、実際にほかの河川でそういう例がある、有効だということも確認した上なんでしょうか。
○政府参考人(大古和雄君) 先ほどの生息状況については、対象となる三つの河川について行いました。この点については、今回、専門家の方からの御指摘もございますので、検討委員会を設けて有識者の意見をいただきたいと思っておりますが、その中で既に設置した砂防ダムについてもイトウの遡上状況等について調査したいと、こう思っております。
○紙智子君 造ってしまってから魚道を遡上できるかどうか調査するというのは遅いと思うんですね。現に、一基目のダムの工事をしてから、以前には確認されていたイトウがいなくなったという指摘もされているわけです。工事が非常にやっぱりその意味では拙速だったと言わざるを得ないと思うんですね。
 今、この砂防対策の在り方をめぐっても、環境砂防という言葉が使われるようになっていると思うんです。生態系や自然環境への影響を抑制をして、そして保全をしていくと。緑の復元や回復で土砂を抑える、土砂が出ない発生源の対策を取ると。ただ土砂が出るからダム造ればいいという、そういう従来のというか、考え方じゃなくて、今そういうことでもって対策を進めようというふうになってきていると思うんです。私たちとしても、やはり土砂を出さないようにすることは大事なんだけれども、しかし、やり方としてはダムじゃない方法でやるべきだというふうに思っています。
 事業者である施設庁は、この三基のダムそれぞれについてどういう見直しをするおつもりなのか、それと、検討委員会の結論が出ないうちに工事をやるということは少なくともやめるべきだと思いますけれども、この点、それぞれについて言っていただきたいと思います。
○政府参考人(大古和雄君) 先ほどから申し上げていますように、この点に関しましては、有識者の方に委員会を作っていただきたいと考えておりまして、その結果を踏まえまして関係機関とも調整して適切に対処したいと思っております。
 あと、工事の点については、当庁の立場といたしましては、この有識者の意見については、地元の方からの早期に砂防ダムを造ってくれという要請を踏まえましてやっていますので、できるだけ早めに結論をいただきたいという立場はございますけれども、他方、委員の、有識者の方に意見を尽くしていただくことも大事でございますので、そういう点を踏まえまして是非検討委員会を進めていきたいと、こういうふうに思っております。
○紙智子君 要望した厚岸町の議会の中でも、この問題をめぐって議論になっているわけですから。だから、私さっき聞いたのは、三基のダム、それぞれについてどういう見直しをするつもりなのかと。これはレクチャーというか、質問するに当たってお聞きしているわけですし、一般の新聞にも出ているわけですから。完成した一基目についてはどうするのかとか、二基目、三基目どうなのかということについてちゃんとお話しいただきたいと思います。
○政府参考人(大古和雄君) これから造る砂防ダムにつきましては、その在り方について有識者の意見の検討を踏まえまして、関係機関とも調整した上で適切に対処してまいりたいと思っております。
 既に設置した砂防ダムにつきまして、魚道等について御意見がございましたら、それについても適切に対応したいと、こう思っております。
○紙智子君 今お聞きしたのは、完成した一基目についてどうするのか。二基目については、これは今取付けの工事中だと思うんですけれども、道路のね。これについてどうするのか。計画段階でまだ工事に入っていないけれども、三基目があるわけですけれども、これについてどうするのか。しばらくそのままなのか。それについてちゃんとおっしゃっていただきたいと思います。
○政府参考人(大古和雄君) 二基目、三基目につきましては、これから建設するものでございます。そういう意味で、有識者の意見等を踏まえて適切に対処したいと、こう考えております。
 一基目につきましては、既にダム自体は設置しておりまして、周辺的な工事はこれからまだ残されておりますけれども、魚道等の在り方について有識者の意見がございましたら、それを踏まえて適切に対応したいと、こういうことで考えておるわけでございます。
○紙智子君 終わるまでは動かさないんですね。
○政府参考人(大古和雄君) いずれにしても、有識者の御意見を踏まえまして工事再開等について考えたいと、こう思っております。
○紙智子君 環境省にお聞きしますけれども、この件に関して、イトウの保護について、そしてこの下流のラムサール条約の登録湿地保護との関係で、今までどういう対応してきたのか、そして今後どうしていくのかということについてお聞きしたいと思います。
○政府参考人(小野寺浩君) 別寒辺牛川下流域に位置する厚岸湖別寒辺牛湿原は、その自然環境が国際的に重要な価値を有することから、一九九三年六月にラムサール条約湿地として登録されております。また、国設厚岸・別寒辺牛・霧多布鳥獣保護区、特別保護地区として指定され、その保全が図られているところでございます。
 現時点で、今回の事業が下流の国設鳥獣保護区に影響を与えるとの事実は明らかになっておりませんが、今まで何度か出ていますように検討委員会を設置するということでありますから、環境省としては、今後、当該地域における湿地環境の保全に関する情報交換を行って、必要に応じて助言等を申し上げてまいりたいというふうに考えております。
○紙智子君 釧路に事務所ありますね、環境省の事務所があると思うんですが、そこと連絡を取り合いながら情報交換もしてということでやっていらっしゃいますか。
○政府参考人(小野寺浩君) 釧路市内に我々の出先事務所があります。ここは国立公園、三つの国立公園と野生生物、東北海道の野生生物を見ております。当然、野生生物保護も担当しておりますので出先と、出先のみならず、自然環境局の中に野生生物課がありますので、本省の野生生物課も含めて情報交換し、必要に応じて助言その他の措置を取りたいと思っております。
○紙智子君 それで、農水大臣にお聞きします。
 それで、漁業それから漁民の立場からも関係ありますし、今の話、聞いておられたと思うんですけれども、川と海とはつながっているわけですよね、森もつながっているんですけれども。海での漁業が営まれると。農水省もこの問題にやっぱり関心を払い、漁業の立場から必要な対処をしていくということ大事だと思うんですけれども、その御意思について伺いたいと思います。
○国務大臣(大島理森君) 今、委員と防衛施設庁との話を伺って、まず町からの要請があったことは事実なわけですね。できればやっぱり、その町でやっぱりこういうイトウの問題も含めて総合的に私は判断したのではないかと思うのでございます。
 そういうことを受けながら今日まで進めて、施設庁も第三者機関のようなものを作って今調査をしているということでございますが、もちろん、すべての公共事業というのは地域の住民の理解と協力を得ながら実施していくことが重要でございますので、その中に、漁業者は反対だということよりは、よく調査をしてくれという話のようでございますので、それらのことも踏まえながら理解を得られつつ進められることを期待をしたいと、このように思っております。
○紙智子君 ちょっと時間の関係もありますので、もう一つ大臣にお聞きしたいんですけれども、北海道では、その前にちょっと一言だけ言えば、要望のあった自治体自身は、最初の段階ではイトウの生息の状況だとか、そういうことというのはよく分かっていなかったわけですよ。今分かって問題になっているということであります。
   〔理事田中直紀君退席、委員長着席〕
 それと、今、北海道では漁業者団体と上流の開発業者との事前協議といいますか、あちこちで制度化をして、川に関する、あるいは河川に影響する開発について協議するということでいろいろ行われているわけです。海の環境を守る上で、また陸上の環境、特に川の環境を守る上で、そういうことの重要性についてどのようにお考えになるかということを一言お願いします。
○国務大臣(大島理森君) 私は循環という言葉を使っておりますが、水というのは、海が自分で水をわき出して海になっているんじゃなくて、やはりそこには、川上から川下へと流れていっている。その結果として、一番出発点の川上というものは、いい漁場を造る、そういう意味での重要性というのは、私は、とても大事な視点と思い、河川流域の環境保全にも取り組む必要があると思うんです、いい漁場を造るために。
 したがって、我が省としては、漁民の森づくり活動推進事業、こういうふうな運動を、事業等を展開しておりまして、十五年度からは漁業者と河川流域住民が連携して行う、連携して行うアシ原づくりや清掃等の河川環境保全活動を支援していきたいと、こういうふうに思っております。
 一般論と申し上げて、全く森と海というのは、もうこれは共生ということよりも連携した存在だと、このように私は思っておりますし、その経過の河川の浄化というものも、当然にこれはもう全部すべて関連、一体的なものだという考え方でやっていかなきゃならぬ時代になったと、このように思っております。
○紙智子君 ありがとうございました。
 それじゃ、次、中山間地直接支払の問題について伺います。
 実施から三年がたって、来年度は制度の見直しの五年目を迎えることになります。農産物の価格が低落をする中で、この中山間地域は高齢化それから耕作放棄地などの深刻な事態が進んでいます。直接支払制度への期待というのは大きいわけですが、この直接支払制度への参加を契機として地域農業を維持するための独自の取組が始まっていて、この制度を大きく育てていく必要があると思うんですね。しかし、来年度の予算は前年度よりも百億円減になっていると。
 これは、都道府県の基金が、結局二〇〇一年度の年度末で二百億円程度未消化で残っているために半分を取り崩すということで、総額ベースで前年度額と同じとしたというふうに説明されているわけです。このような基金の未消化が生じた原因についてどのようにお考えでしょうか。
○政府参考人(太田信介君) 中山間地域等直接支払制度は、先生が御説明いただきましたように、我が国農政史上初めての制度でございます。制度の普及定着あるいは集落協定などの締結にやはり一定の時間が必要だったということでございまして立ち上がりが遅くなったわけでございますけれども、現場での制度の認識の度合いは年々高まっているということもまた事実でございます。
 その結果、本制度の対象となり得る農用地のうち集落協定などが締結されました面積の割合で申し上げますと、初年度、すなわち平成十二年度におきましては六八%にとどまっておりました。それが平成十四年度の、まだこれ見込みでございますけれども、八三%程度まで増加するんではないかというような状況に至っております。
 こうした協定面積の増加あるいは集落協定などを締結する農業者などからの資金需要に速やかに対応していくという観点から、都道府県に基金を設置いたしまして、国から毎年度交付金を交付し、都道府県の方では毎年の実施状況に応じまして基金を取り崩して交付金を交付していく仕組みといたしているわけでございます。
 その御指摘の観点につきましては、そういった意味で、未消化が生じているということでございますが、消化というよりも、手挙げ方式ということになっておるものですから、地域地域での取組状況に差がある、地域の特性に応じた話合いの状況等がその現在の状況につながっているというように私どもとしては認識しております。
 今後、更にこの制度の普及定着が進み、地域の特性を踏まえました創意工夫によりまして協定締結面積が一層増加するように、その一層の推進に努めてまいりたいというふうに考えております。
○紙智子君 確かに、今年度の対象用地、農用地の面積に対する交付金の支払われる見込みということの面積、八三%ということなんですけれども、数字だけで評価できない問題もあると思うんですね。
 農水省が二〇〇一年度に、平成十三年度ということですかね、十二年度、十三年度かな、に行った中間点検結果というのがまとまっているわけですけれども、この中に重要な指摘があります。それは、直接支払の目的は耕作放棄の発生の防止にあった、しかし自治体の取組の状況を見ると、協定締結率が低い市町村ほど高齢化率、耕作放棄地率が高いという結果が出ていると。
 日本共産党は、この制度の発足当初、交付条件が厳しい、そして生産条件が悪くとも、耕作放棄地になりやすい農地が直接支払を受けられないという事態になりかねないということで指摘をしているわけですけれども、心配したとおりになっているという状況だと思うんです。
 制度の評価や見直しに当たっては、この結果を深刻に受け止めて制度の改定に反映させるべきだと思いますけれども、どうでしょうか。
○政府参考人(太田信介君) 繰り返しになりますけれども、この制度は平成十二年度に我が国農政史上初の制度として導入されたものでございます。そういった意味で、中間年でこの中間点検を実施するといったこともそういった性格から実施したものでございますけれども、その結果としては地目別などに取組の格差が生じておることもまた事実でございます。五年間の実施期間におきましてこの現行制度の枠組みの中でより多くの成果を上げるべく、更なる普及定着を図っているという状況にございます。
 そうした中で、これは中間でやればいいということではなくて、年々その点検を進めていくということが非常に重要だと考えておりまして、第三者から構成される委員会のアドバイスも得まして、その普及定着を一層進めてまいりたいというふうに考えております。
○紙智子君 農林中金総研の研究員の方が直接支払の実施状況の調査をして、これもまたまとめているわけですけれども、ここでも同様の結果が出ているんですね。
 この制度に非常に積極的に例えば岩手県でも取り組んで、平地から中間地域そして山間地ですね、耕作条件が悪くなるほど直接支払の交付可能な農地に対する協定締結面積の割合、直接支払制度に取り組んでいる割合が低くなると。中間地域で八割、山間地域で四四%。耕作放棄の拡大により農業基盤が急速に衰退しつつある地域において本制度への取組が極めて限定的だという結論を付けているわけですね。
 その上で、一ヘクタール以上の一団の農用地でなければならない、それから五年契約で途中で耕作放棄が出た場合は交付金を全額返却しなければならない、そして連帯責任を求めると、こういう制度であるという要件が、より生産条件が厳しくて高齢化が進んでいる山間地域での取組の阻害要因になっているというふうに指摘されているわけです。
 耕作条件の厳しい山間地域が直接支払制度に取り組めるようにするには、こういう条件の見直しをやっぱり掛けることが必要じゃないかというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。
○政府参考人(太田信介君) 耕作放棄の発生の状況については様々な要因があろうかというふうに考えておりますけれども、制度の観点で申し上げますと、各県で設けられる特認の制度等の活用もいただきたいということで、そうしたことも一つの制度創設当初からそういう仕組みも設けておるところでございます。
 いずれにいたしましても、どの中山間地域等において、すべての本当に農地を現状のままで残し得るかということについては、基盤の整備の状況等も非常に深くかかわっておることだと思います。そういった意味で、地域の中での話合いを通じてその合意形成をいただく、そして合意形成の結果としてこの直接支払制度を活用いただいてそういう取組を進めていただくということが非常に重要だというふうに考えております。
 中間点検をいたしましたけれども、御指摘のとおり平成十六年度にこれは五年目ということを迎えます。この時点で制度全体の見直しを行うことといたしておりまして、その際には中立的な第三者委員会等の意見も伺った上で対応していくべきかというふうに考えております。
○紙智子君 今お話あったような運用面でいろいろ緩和しているということは分かっているわけです。しかし、現在の実施要綱では、五年間継続して生産活動を行う協定を締結し、その協定に違反した場合には交付金の返還を求めると、原則返還ということを明記しているわけですね。そうなりますと、例えば七十歳を過ぎた高齢者ばかりで五年間協定というのは、果たして五年間続けられるのかなということで、そういう声が出るというのは当然だと思うんですね。
 自治体の担当者の聞き取りでは、積極的に取り組んでいるところでも、いったん耕作放棄された農地や五年間のうちに放棄されている可能性が高い農地は協定から外すところが多いという実態になっているわけです。これは、担当者や農民の理解不足に帰すことができない制度の構造的な問題ではないかと思うんです。EUのように、悪質それから故意にやるという、こういう場合を除いて返還は必要ないというふうにしているわけですけれども、そういう実際の運用や実態に合わせて実施要綱を見直すことが必要ではないかということを申し上げたいと思うんです。
 それで、続けてお聞きするんですけれども、耕作放棄の圧力の高い地域でこの制度から抜け落ちる、この制度が受けられないもう一つの大きな要因、理由になっているのが、交付単価が低いということがあると思うんです。
 それで、直接支払の目的は、もう最初に述べましたけれども、結局平地地域との収入格差を直接支払で埋めると、それで平地並みの収入を保証し耕作放棄を防ごうということですよね。それで、それにもかかわらず耕作条件が悪くて高齢化や耕作放棄が進むと。本当に危機にある地域でこの制度に取り組み、本当はそういうところに取り組みたいんだけれども、そういう危機的なところに取組が進まないというのは、やっぱり現在の農産物の価格と直接支払の交付金とでは、厳しい生産条件の下では再生産を確保し農業を継続するというところまでの意欲、展望を持てないということがあるからじゃないかと。だから、こういう地域で制度の目的を達成するためにも、私はこの単価の引上げというのはどうしても必要じゃないかということを申し上げたいと思うんですけれども、この点についてお伺いします。
○政府参考人(太田信介君) 一つは、返還を義務付けるというのはおかしいじゃないかという御指摘でございますが、これはやはり政策としては、その目的を達するという観点からいたしますと、一定のやっぱり縛りは必要だというふうに考えております。これが余り、それではそういうことが許されるということになりますとモラルハザードということも十分懸念されるわけでありまして、ある意味では非常に現地レベルではまじめに取り組んでいただいている状況でございます。我々としては、その弾力的な実施も含めて、そういった意味でのむしろ支援をしていくべきであろうかというふうに考えております。
 一方、単価の問題でございますけれども、これは収入の差という言い方を議員なさいましたけれども、生産性の差ということでこの単価は決めさせていただいております。これにつきましても、この直接支払だけで農業政策あるいは農村施策を進めていくということではございませんで、様々な施策と一体的になって耕作放棄地の問題が解決されていくものだというふうに理解しております。そういった意味で、例えば先ほども若干申し上げましたけれども、そこに近づいていける、機械で近づくこともできないというような場合に、本当に簡易な、農道と言えない耕作用の道路、そういったものを整備するというようなことを地域の方々で取り組んでいただく、いわゆる直営的な方式、そういった形で非常に安くそういう整備をできるようなことも一つは考えられます。
 そういった意味で、様々な施策と一体としてこの耕作放棄地の問題については取り組んでいくべきであろうかというふうに考えております。
○紙智子君 いずれにしましても、本来、その趣旨等を考えたときに、本当は対策をしたかったところが実際にはなかなか厳しくて使えないという状況があるわけですから、そこに対してきちっとやっぱり焦点の当たった対策が必要だというふうに思うんですね。
 日本政府、今日の午前中の議論もいろいろされていたわけですけれども、政府の姿勢として、例えばアメリカなどが自分の国の農業に対しては手厚い保護を、対策を取っている、そしてWTO農業交渉に臨んでいるという、このことから見ますと、それとは本当に大きな開きがあるということを私は思うんです。
 条件不利地への直接支払というのはWTO協定上も緑の政策として認められたものです。そして、国内の農業の維持のためにも本当に重要な切実な声として上がっている施策であって、この予算増を含めて、制度の拡充を求めまして、私の質問を終わらせていただきます。