<第155回国会 2002年11月21日 農林水産委員会 第4号>


平成十四年十一月二十一日(木曜日)
   午前九時一分開会
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  本日の会議に付した案件
○有明海及び八代海を再生するための特別措置に関する法律案(衆議院提出)
○政府参考人の出席要求に関する件
○独立行政法人農畜産業振興機構法案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人農業者年金基金法案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人農林漁業信用基金法案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人農業技術研究機構法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人緑資源機構法案(内閣提出、衆議院送付)
○独立行政法人水産総合研究センター法の一部を改正する法律案(内閣提出、衆議院送付)
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○紙智子君 日本共産党の紙智子でございます。
 今日は参考人の皆さん、本当にありがとうございます。早速やらせていただきます。座らせていただきます。
 最初に、宇野木参考人にお伺いしたいと思います。
 それで、潮汐、潮流の研究をされていて、それがやはりどういう影響を与えるかということが、お話もありました。
 それで、私は、影響の評価をめぐって、2001年の3月に日本海洋学会海洋環境問題委員会が有明海の環境回復のための提言を発表いたしました。
 その中で、汚濁の問題について、汚濁の量について数値が、例えば自然保護協会の皆さんが出される調査と、それから農水省が示している数値に三倍の開きがあるということですとか、それからモニタリングについても、調整池から汚濁の負荷が出されてくると、その状態というのが締切り以前と以後でやっぱり大きな違いがあるはずなんだけれども、しかし、農水省の発表したところによりますと、締切り前と後では水質に変化はない、環境にそれほど大きな影響を及ぼしていないというふうに出されるなど、食い違いがあると。
 それから、サンプリングの問題なども、海のどの部分を取って調べているのかということも含めていろいろ御指摘をされているわけなんですけれども、その点で、農水省の調査の客観性とか科学性という問題について先生のお考えをお聞きしたいと思います。
○参考人(宇野木早苗君) 私は海洋物理が専門ですから水質、生物の方は余り、知識が不足していますが、そういう点は御了承願いたいと思います。
 それでは、今のお話に対しまして、私の資料の三ページの図六を見てください。
 これはCODの分布を示したわけです。そして、このCODの分布からいうと、これは日本自然保護協会のデータですが、ともかく膨大な汚濁負荷が出ているということが分かるわけですね。それが、今おっしゃったように、農水省の方のデータとは違っていると。これは、違うのは当然なわけです。測り方がおかしいわけです。
 農水省の測っているのは、海面からたしか50センチぐらいのところで測っているわけです。そうすると、海というのは結局、上に淡水が中から出てまいります。そうすると、淡水というのは表層の方を流れていくわけですね。上と下じゃ、かなり密度成層をしているわけです、密度が違うわけです。50センチのところというのは下の方の影響がかなり大きいわけです。例えば塩分なんか見てみましても、場合によっては、もう下の方と五十センチのところの層は塩分が同じということは、そこには中からの淡水の影響はないときもかなりあるということを意味するわけです。
 したがって、中から出てくる淡水、汚濁水というのは、結局、表層近くを流れてくるわけでして、それをつかまないといけないわけでして、それをつかまなくて、そして下の方の影響を受けた50センチのところでやっていて違いがあるなんとか言っては、これはもう大きな間違いです。これはもう本当にモニタリングの問題になってくるわけで、そういうようなデータが多いわけです。
 結局、形式的に決められた深さでやるとか、そうじゃなくして、現象を見て、その現象を把握するにはどういう測り方をすればいいかと、そういうことを日本自然保護協会はやっているわけです。その結果、こういう図六とかあるいは図七とか、こういうデータが出てくるわけですね。だから、こういうふうに現象に応じた調査をすればきちんとしたデータが出てくる、そういうことを私は考えております。
○紙智子君 そういう点では、調査のやり方ももっと考えなきゃいけないということがあると思うんですが、それと、ちょっと角度がまた変わる話なんですけれども、公共事業をやっていく場合に、総合的にその効果を考えるということなんですけれども、費用対効果という問題があります。それで、やっぱりその事業によってどういう効果があるのかということを出していく場合に、失われる効果というものも当然考えなければいけないだろうと。
 それで、例えば有明海の場合、干潟の浄化機能などは非常に大きな効果があるということが言われているわけですけれども、こういうものなどの損失部分といいますか、こういったものを差引きしてやっぱり計算をして出していかなきゃいけないというふうに私は思うわけですけれども、この点についての先生のお考えはいかがでしょうか。
○参考人(宇野木早苗君) 私の資料の四ページを見てください。四ページの一番最後の行のところで、ここで、その成功がうたわれたナイル川のアスワンハイダムでさえ、利益に対してその約70%の損失を伴っていたということを我々は銘記しなければならないと。
 結局、ナイル川のアスワンハイダムは非常にエジプトに利益を与えました。しかし、その結果としてやはり大きな損失が出ておりまして、河口付近の地中海の漁業は非常に大打撃を受けております。エンツという人は、結局、評価いたしまして、プラスの面がプラス60%、マイナス面がマイナス40%で評価しているわけです。だから、実質的な効果というのは20%ですよね。
 したがいまして、有明海の場合にも、干拓事業でいろいろやっても、その効果といった場合に、私は詳しいことは知りませんが、結局、それを考課すると、これだけ農地が増えて作物ができてと、そういうふうな評価しかやっていないような気がするわけですよね。結局、有明海全体がこんなふうに悪くなってきた評価というのは、損失は入っておりません。だから、私は、評価する場合には、効果とそれから与えるであろう影響というのを引いて、それに対して費用との比率を考えるのが本当であろうと思うわけです。そうすれば、有明海干拓事業が本当にプラスになっているのかどうか。アスワンハイダムですら、あれだけのマイナスを作っているわけですよね。
 それから、三河湾におきまして豊川用水のことを例を出しましたが、豊川用水だってあの地区に大きな農業利益を得ております。しかし、それが実は、この一ページの図の二にしましたように、結局、三河湾がもういつまでも日本一汚れていて、そして更に低下の傾向もあるということを見れば、そういうことまで含めてそういう事業を考えないといけない。ところが、そのとき、新たに考えられている設楽ダムとかそういうダムの影響というのは、そういうことは考えていない。それで果たして費用対効果が出てきているのかと、こんなふうに私は思います。
○紙智子君 宇野木参考人は、この有明海の弱った状態に強烈なパンチを加えたのが諫早湾の干拓の事業だと、だから、再生をさせるためには今も日々続いているパンチを止めるということをやらなければいけないと、それなしに再生ないということをお話の中で言われているわけですけれども、その点で、今回出されているこの法案ですね、これについて、再生につながるのかどうかということについてお伺いします。
○参考人(宇野木早苗君) 私は、正直に言って、これはつながらないと思います。
○紙智子君 今度の法案が、有明海の再生の方策について、漁場の整備それから覆砂事業などいろいろな項目があるわけですけれども、再生のために、やはり人為的、対症療法的な漁業振興策ではなくて、自然の治癒力を本当に大切にしてやるべきだということがノリの第三者委員会の会議の中でも議論をされたわけですけれども、その点についての御見解はいかがでしょうか。
○参考人(宇野木早苗君) 私は、自然の力、これは非常に大きいものですから、それに逆らってそれでやろうとしてもそれは無理です。だから、自然に逆らわないようにちゃんとうまくやらねばならない。ところが、潮受け堤防ですと、とかく、口付近では流れが停滞しているわけですよね。そういう停滞した状態を作って、そこに膨大な汚濁が入ってくる。それで海が汚れないというのはおかしいわけです。
 そういうことを考えると、やはりそういう根本的なところにも人間の手によって非常に重大な問題が起きているわけですから、それを除くということが、自然の力をかりて有明海を再生する、これがやっぱり後世に残すべき有明海であろうと、こんなふうに思います。
○紙智子君 ありがとうございました。
 それでは、錦織参考人にお聞きしたいと思います。
 今度の法案についてですけれども、大島農水大臣が、10月の1日ですか、記者会見をやって、今回のこの議員立法については、総合的に、いろんなこれまでの経過というのはあるわけですけれども、そういう問題を乗り切るための議員立法として提案をし、臨時国会で成立をせしめていただくと同時に、先ほど来申し上げた経過の中から、というのは、まあ漁業者やいろんな反対もあったと、そういう中から、様々な諸計画については着実に一つ一つ進めていくというのが農林水産省としてのスタンスだというふうに述べておられるわけです。
 それで、この法案のやっぱり政治的なねらいといいますか、その辺り、どのようにお考えでしょうか。
○参考人(錦織淳君) 私がこの法案の問題点について具体的なことを幾つか今日もお話しをいたしましたけれども、もう一つ、この法案がどういう客観的な機能を果たすのかということについてのお尋ねだと思いますが、それも私にとっては懸念材料なんです。
 例えば、農水大臣の、今の大島大臣の前の大臣のときから、この有明特措法の制定経過を受けて平成14年度中に立ち上げる新たな委員会で議論をするんだと、こうおっしゃっているわけなんですけれども、先ほど御質問いただいたノリ第三者委員会のその答申あるいは調査も終わらないうちにまた委員会を作るのかと。そして、先ほど冒頭で申し上げたこの諫早湾の、泉水海のタイラギの死滅についての調査も、結局何も分からないという結論だったと。
 もう諫早湾の干拓事業、有明海に関しては、極端な言い方をすれば、ごまんといろんな委員会ができております。次から次へと立ち上げて、何が分かったのか、何が解決できたのかと、こう考えますと、またもや委員会なのかと。そして、事はすべて先送り先送りされ、そして、有明海異変の要因は複合的であるということによって、何もかもあいまいになっていくということを恐れております。
○紙智子君 4月15日の深夜に、農水大臣と四県の漁連の会長さんと、それから衆議院議員の方、それから長崎の知事さんや佐賀の知事さんが会って会談をしたと。それで、その中で、短期の開門調査の実施ということと併せて、2006年度の干拓事業を完成するということを合意したということが伝えられました。しかし、その後すぐに、この合意そのものが大きく揺らぐ、崩れるような状況が起きています。
 その合意を知って、有明海沿岸の四県の漁民や住民の皆さんが幹部の独断だということで抵抗して、26の漁協の中で21の漁協がそれを覆すと。やっぱり工事再開に反対だということを示しているわけですけれども、工事反対の集団訴訟まで起こそうとしているという事態になっているわけですが、こういう状況があるのに推進しようということについては、参考人の考え方はいかがでしょうか。
○参考人(錦織淳君) その4月の会談については、私は、まずどういう会談なのか、その手続やらそうしたものが一向に分かりません。
 そういう意味では、もし伝えられるような、あるいは大臣が答弁されているようなことが決まって、有明海の関係漁民はそれに同意をしたんだという意味で本当におっしゃるのであれば、極めて手続的にあいまいなものだと思います。しかも、内容は一向に公開をされておりません。そこに出席をした方が果たしてどういう形でイエスと言ったのか、ただ黙ってうなずいただけなのか、そうした素朴な疑問すらございます。
 当然、そうしたことを受けて物を進めようとすれば、現場との間に大きなあつれきが起きるのは当然でございます。その結果、例えば福岡県漁連は、そうした合意があったとすればそれは到底受け入れ難いという形で御指摘のような法的手続を今進めておられますし、同じようなことが佐賀県でも起きているということでございます。
○紙智子君 ありがとうございました。
 じゃ、次に、田中参考人にお伺いしたいと思います。
 実は、私、昨年12月に諫早湾に参りまして現場を見せていただきました。それで、またがる四県も、ずっと走りながらですけれども、地元の方や、諫早市にもお邪魔しましたし、そういう方々からいろいろ意見も伺いました。
 その中で、やっぱり災害防止ということに対する切実な思いというのが非常に分かりました。それで、本当にそういう意味では防災対策が必要だという、これは当然のことだというふうに思いますし、そのことについては対策を打たなきゃいけないというふうに私も思います。ただ、その対策という場合に、やっぱりいろいろな大きな影響を及ぼすあの大きな潮受け堤防ですね、それでなければならないのかというのは、正直な思いとしてそのときに私の中に残りました。
 それで、やはり本来、防災対策といった場合に、いち早く手を付けてやらなければならないこと、例えば現存の、既存の堤防を改修したり、かさ上げをするとか、それからポンプ排水機場をもっともっと作っていくという問題ですとか、川の流れについての工事をするとか、そういったことなどを含めて、実際には堤防を造るということでもってなかなか手を付けられないできていたということがあるんじゃないだろうかと。やっぱり、そういうところにもっと処置をして防災対策というふうにならないのかということを、正直言っていろいろお話聞きながら思ったわけなんですけれども、この点についてはいかがでしょうか。
○参考人(田中克史君) 旧堤防の修復で防災効果を発現できないのかという御趣旨かと思いますけれども、ごらんになっていただけば分かるかと思うんですけれども、旧堤防は相当に老朽化しておりまして、至るところにひび割れ、それから沈下、そういったものが起きております。これを仮に修復しようとすれば相当の金額が私は要るであろうというふうに思っておりますし、また、ひび割れですか、地下水脈を通りまして潮が後背地の農地に流入すると、こういった問題もあるわけでございます。
 それから、それと比較の上でこの複式堤防を申し上げますと、旧堤防をかなり修復するといたしましても相当のお金が掛かるわけでございますけれども、それとても高潮、洪水のときには、あそこは非常に風が強いところでございますので、潮の飛沫が後背地の農地を襲いまして塩害の問題が発生するわけでございます。しかし、この潮受け堤防を前面に出すことによりまして、そういった高潮も防げますし洪水あるいはその飛沫の飛来に伴う塩害を防ぐ、こういった効果があるということについても御理解をいただければというふうに思います。
○紙智子君 ちょっと時間がもうなくなってきましたので、次に移らせていただいて、ありがとうございました。
 岡本参考人にお聞きしたいと思います。
 今度の再生法の中で覆砂事業の問題が言われているわけですけれども、この事業についてはまだ、はっきりした効果ということで、そういうことが証明されているというわけではなくて、実験でやってきているという状況でもあると思うんですけれども、この覆砂事業を再生事業の言わばかなりの部分を占めてやるということになっているわけですけれども、これについて参考人の御意見はいかがでしょうか。
○参考人(岡本雅美君) 私も専門外ですので正確なお答えになるかどうか分かりませんが、まず、底泥がそのままむき出しになっていますと、そこに貧酸素水塊ができたりして明らかに害が出ることは分かっております。それを取りあえず対症療法的にしのぐのに覆砂が有効であると、これはもう非常に単純明快な話。
 ただ、トータルに考えたときに、先ほど錦織先生がおっしゃったような、一体その砂を持ってくるところで副次的に発生する被害の方が大きいんじゃないかとか、いろんな疑問。それからさらに、衆議院で私と同業の中村先生が証言なさいました、証言の中になかったかもしれませんが、覆砂をしてもまたヘドロは乗るだろうと。ですから、その場合、我々がやることは、普通は乗ったらまた乗せざるを得ないなという形が土木的対応でございます。
 ただ、土木的対応がどこまで有効か、また費用対効果ということであればどうかという点に関しては、むしろこれは実行する中である程度テスト的にやっていかざるを得ないだろうと。つまり、最初から駄目だとも言えないし、やっていく過程で、いや、意外に効果が薄いからやめようということになるかもしれません。
 現段階で言えるのは、その程度だと思います。
○紙智子君 ありがとうございました。終わります。